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めざせ知識の無駄遣い

RFIDってなに

この記事は eeic (東京大学工学部電気電子・電子情報工学科) Advent Calendar 2020 の20日目の記事です.

 

はじめに

eeic19の人です.電波的なことを研究しているのでそれに関したことをご紹介します.情報系ではないです.が,回路系を考えている人やそうでない人の心に響いたら嬉しいです.

 

RFIDってなにさ

さて,B3以上で「無線通信応用工学」を取った人はRFIDという言葉を聞いたことがあるかと思います.正式には「Radio Frequency IDentification」といって,「チップに記録されたID情報を無線を使って読みだすシステム」のことをいいます.従来の紙に印刷するバーコードと比べて,傷や汚れに強い,再利用できる,リーダを近づけなくていい,同時に取得できる… みたいな利点がよく掲げられます.

いい例としてユニクロの値札が挙げられます.ユニクロの商品についているタグにはRFIDシステムが組み込まれています*1ユニクロで買い物をしたことのある人はわかるかと思いますが,店舗によっては無人レジが置かれているところがあり,そこではこのRFIDを用いて商品情報・価格が自動的に読み取られています.

現在ユニクロで使われているRFIDチップはこのような外観になっています.

 

現状どんな感じなのよ?

我々一般人にもわかるRFIDの応用例として,さきほどユニクロのタグを挙げましたが,正直それ以外の産業ではあまり大衆には浸透していないというのが現状です.これ以外に知っている例は最近RFIDの導入を中止してしまったし…….

 浸透しない理由として,バーコードと比べて導入コストが高いというのが主な理由と言えるでしょう.紙とバーコードの白黒を判別できる程度のリーダがあれば成り立つバーコードに対して,より複雑な機構をもつリーダは高価格です.また,RFIDそのものも現状では製造コストが高価というのもあります.

 

技術的なアレコレ

そんなわけで価格を下げることが必要なRFIDですが,低価格化を達成するためにはさまざまなパラメータを考慮する必要があります.

使用周波数 

上で現在ユニクロで使われているRFIDの外観のリンクを貼りましたが,みなさんはどこにIDが記録されているかわかりますか?

・・・

正解は,画像の中心部にちょっと見える黒い点,この小さなチップにIDが記録されています.じゃあまわりの灰色のは何だというと,これは全て電波を送受信するアンテナです.見てわかるように,IDを記録する部分と比べて圧倒的にアンテナが大きいです.このアンテナをいかに改良させるかが問題となります.

RFIDチップの単価を安くする手段として「小型化して材料をへらす」という方法があります*2.しかしながら,アンテナを小型化するということは使用する電波の波長が短く,つまりより高周波を使う*3ことになります.高周波を使うということは,電波伝搬による減衰がより大きくなることを意味します*4.つまり使用できる距離が短くなり,「近づけなくてもいい」というメリットがなくなってしまうわけです.この「使用周波数 vs 通信可能距離」というトレードオフが改良に際しての論点となっています*5

 

アクティブ型・パッシブ型

 電波を受信したRFIDは,それに応じてIDを出力させる必要があります.そのID出力回路を動作させるために必要な電源を確保する手段が二種類あります.

 まず,IDチップに電池を一緒に組み込んでそれをもとに動作させる「アクティブ型」があります.この方法には,安定した電圧源とGNDを確保できるので回路を簡単にできるというメリットがあります.しかしながら,この方法では電池が切れたらいちいち入れ替える必要があるし,電池を含む分サイズも大きくなってしまうというデメリットがあります.したがって,RFIDには基本的に次の「パッシブ型」という方法が用いられます.

パッシブ型では,リーダが飛ばしてくる電波を整流して電源を作るため,電池を必要としません.しかしながら,電池で作れるほど安定した定電圧を作ることができないため,特殊な回路を用いる必要があります*6

 

反射波の受信

 また,RFIDチップが返してくるID情報が載った電波をリーダ側でどう受信するかも課題となっています.そのままの状態では,リーダがRFIDチップに飛ばした何も情報が無い電波とID情報が載った電波が混信してしまい,正確にIDを取り出すことは非常に困難です.これに関しては,MIMOライクに受信アンテナを複数使ったり,位相を変えたりすることが考えられています.

加えて,異なるタグから返される異なるIDを同時に受信するためには,読み取る際にIDの衝突が起きないように回路側に衝突回避機能を付ける必要もあります.

 

おわりに

RFIDという分野のさわりから始めて,現状や課題をご紹介しました.世間では5GだIoTだで,ハードウェアをやっていると何かと無線と関わることがあるかと思います[要出典].そんな時に「こんなのあったな~」程度にでも思い出していただければ幸いです.そしてB3は4Sのワイヤレスエレクトロニクスを,B2は3Aの無線通信応用工学を取ろう!!

 

参考文献

RFID/国内市場はまだ鈍く~2020年に5円は達成見込み|物流プラザ (2020-12-12)

 

*1:タグの裏をよく見ると金属っぽいものがくっついています

*2:小型化できれば,バーコードを貼ることが出来ない小さな部品を販売するお店(千石電商とか)も導入できるようになって一石二鳥です

*3:ちなみに,さきほどのユニクロのタグはUHF帯(900MHzくらい)を使っています

*4:フリスの伝達公式による

*5:別アプローチとして,受信電力が小さくなっても動作するような回路を設計するというのもあります

*6:このへんのことが最近の論文で議論されているようです